浮ついてるから結婚できた「一緒に暮らし始めた日」/カレー沢薫

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このコラムは、年始に5万使って出なかったFGOの坂田金時ガチャが再度開催される前日に書かれている。

その結果により、貴様がこれを読んでいる頃、私はもうこの世に存在しないかもしれない。

 

オタクというのはつくづく、死ぬチャンスに恵まれている。

まず「萌え」というもの自体が体に悪いのだ。何故体に悪いかというと、シャブが体に悪いのと同じ理屈である。特に幻覚をよく見るところが似ている。

強い快感があるが、その代償も大きいのだ。

 

まるでシャブをやった経験があるような言い方だが、あれだけすべてを犠牲にしてやっちゃう人が後を絶たないのだから、相当いいのだろう。

 

そう、私もやっちまうのだ。すべてを犠牲にしてガチャを。

 

冒頭言った通り、私は年始に坂田金時ガチャで5万溶かし全治三か月の重傷を負った。そして退院したと同時に、同じくFGOに、歴史上の人物で最推しの土方歳三が登場し、二桁万円ほど溶かして、その足で病院に戻った。

 

その後、医者に「もう戻ってくるなよ」と看守みたいなことを言われながら、病院の門をくぐった瞬間、坂田金時ガチャがはじまったのである。

もはや貴様は一生病室の天井のシミを眺めていろと言われているような気がしてならない。

確かに私ほどの萌え豚になると、シミを擬人化して楽しむぐらい造作もないが、金太郎のモデルや、新選組副長を手に入れようとした結果、天井のシミと恋をしているというのは「末路」という言葉にすら収まらないような気がする。

 

それにガチャで推しが手に入らないというのは、ただ大金を失った、という問題ではないのである

アイデンティティが崩壊するのだ。

 

全てを犠牲にしてガチャを回してしまうなどと言ったが、失ったのは、たかだかではないが数十万の金のみである。

かたや、おクスリで捕まったあのタレントさんや女優さんを見て見ろ。もっと全てを失ってらっしゃるではないか。

信じられないことにガチャは今のところ合法なので、逮捕までいくのは難しいかもしれない。しかし、貯金を使い果たすのはもちろん、カードは全て限度額一杯のリボ払い、メルカリで現金を買い、闇金にすら「あなたの名義では貸せません」と敬語で言われ、いらない臓器を二、三個売っている、ぐらいのところまではいけるはずだ。

いらない臓器があるかはわからないが、アイドルグループに1人2人「あれブサイクじゃね?」というのが混ざっている要領で、内臓にも「これいらなくね?」みたいなのが一つや二つあっても何ら不思議ではない。

 

つまり、金時や土方さんを出すのに、まだやれることは山ほどあったのだ。では何故ベストを尽くさなかったのか。そう自問自答すると、いつも同じ答えにたどり着く。

 

愛が足りないんじゃないか、と。

 

所詮、私の、金時や土方さんへの愛など、その程度のものなのかという話になってしまうのである。オタク、そして、金時・土方クラスタというアイデンティティの崩壊である。

そんなことはない。本当に好きなのだ。ただ金がなく、GUK(ガチャ運クソすぎ)なだけで、気持ちはホンモノなのだと己と天井のシミに言い聞かせてはいるが、そんなとき、腹部に謎の手術跡を持った人間が「金時出せたよ、まあ自分も色々ここから出しちゃったけどね」と上手くもなんともないことを言いながら現れたとする。

そして「金時持ってないの?え?内臓全部そろってるの?それで諦めたの?え?え?本当に好きなの?」と言われたら、シーツを握りしめて号泣し「私は…金時クラスタじゃありません!」と言うしかないのである。

 

失うのは金だけではない。自分、そして愛を失うのだ。

 

しかし、最初に書いたが、まだこれを書いているのは回す前だ。出ないと決まったわけではない。

 

そして、ここに、10万円の現金がある。

 

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