天然な妻との楽しい日々。ただし、運転時は除く/旦那さまは貴族(山田ルイ53世)

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これは男女の問題ではない

一年程前の話。

深夜に仕事を終え、家路に就くべく、タクシ―を拾った。

行き先を告げると、

「ちょっと裏道使いますね!」

自ら率先して、近道に精を出してくれる運転手に、

「さすが、プロ!運転上手いなー!!いや、実は、僕の嫁の運転が怖くてね―…」

繰り返すが、妻は安全運転。

何の落ち度があったわけでもない。

運転手を褒めそやし、更なるサービスを引き出すため、妻を生贄にしただけ。

最低の男である。

しかし、

「まあねー…女性は運転に向いてないらしいですねー!」

僕の予想に反して、この貢物がお気に召したようで、

「確か、空間把握能力っていうのは、男の方が女より優れているんですってね―!?」

饒舌に続ける運転手。

何の科学的根拠があるのかは知らぬが…そうだったのか。

常日頃の妻の運転に対する不安は、僕が小心者なせいだけではなかったのだ。

相槌代わりに、

「あっ、そこの路地を左折で!」

道順を指示し、更に詳しく御高説を賜ろうと口を開きかけた瞬間、

「ガリガリガリガリガリガリーーー…」

壁か放置自転車か、とにかく何かがタクシ―の車体と激しく擦れ合う音がした。

(え―――――!!?)

空間把握能力の話の直後の大失態。

気まずい。

 

「お客様、申し訳ございません!!」

車を止め、振り向き、平謝りする運転手の顔…何かが引っ掛かる。

慌てて、ダッシュボードに鎮座している、ネームプレートに目をやる。

再び、運転手の顔。

ネームプレート。

今一度、運転手。

最後に駄目押しの一瞥を、ネームプレートに。

テニスの審判さながらの、視線のラリー。

その結果、僕が感じた違和感の正体が判明した。

運転手は…女性だった。

僕がおじさんだと思っていたのは、おばさんだったのである。

身を持って空間把握能力の欠如を証明してくれた形。

繰り返すが、科学的根拠があるのかは知らない。

「男性脳、女性脳の根拠とされてきた脳の性差は、実際には存在しない」

そんな研究成果を知らせるニュースも、最近耳にした。

 

しかし、そんなことはどうでもいい。

 

これは、男とか女とか、そんな単純な話ではない。

夫婦の問題である。

以来、僕の決意も水の泡。

相も変わらず妻の運転に口を出し、険悪な空気で車内を充満させる日々なのである。

Text/山田ルイ53世

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