「一国一城の主になりたい」脳を5%しか使えていない僕の焦り/旦那さまは貴族(山田ルイ53世)
人の親ともなれば、何かと“焦る”ことが多い。
先日、妻が持ち帰ったとあるパンフレットなどはその典型例。
所謂、早期幼児教育を謳った塾の案内である。
訊けば、体験入学をしてきたそうな。
「人間は潜在能力の5%しか発揮出来ない…残りの95%を引き出すには…」
などと始まり、“右脳”だの、“左脳”だの、果ては“天才”といった文言まで踊っている。
さながら、漫画「北斗の拳」の世界観。
一子相伝の神の拳、その奥義でも書いてあるのかと一瞬我が目を疑った。
別段、娘を世紀末救世主にしたいわけでもないが、1mmも心が動かないと言えば嘘になる。
極め付けは、
「六歳までに、脳の全てが決まる!」
という一節。
「今、お申込みなら最初の一カ月無料!」
「限定○○個!お早めに!!」
そんなスーパーのセール、何かの販促キャンペーンの煽り文句とはパンチの重さが違う。
我が子の脳の話となれば、そう簡単にはノーとは言えない。
親とはかくもしょうもない生き物なのである。
実際通わせるかどうかは別問題だが、とにかく焦るのである。
またある時は。
「○○さんのお宅、今度、引っ越すんだって―!」
仕事を終え帰宅した僕に、妻が告げる。
○○さんとは、妻のママ友。
この度、御両親から受け継いだ都内の一等地に、マイホームを建てたらしい。
羨ましい限りである。
そう言えば最近、
「猫ちゃん飼いたいなー!」
娘が言っていたのをふと思い出す。
しかし、我が家は借家であり、ペットは禁止。
彼女の願いは叶えてやれない。
貴族でもあるまいし、都内で一戸建てなど、“一発屋”にとっては夢のまた夢。
妻に他意がないのは承知だが、否応なしに焦る。
何より僕とて、古臭い物言いで恐縮だが、“一国一城の主”に対する憧れはあるのだ。
庭に池があるお隣さん >>
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