「一国一城の主になりたい」脳を5%しか使えていない僕の焦り/旦那さまは貴族(山田ルイ53世)
庭に池があるお隣さん
僕の実家は、兵庫県の田舎町にあった。
一応、一軒家である。
僕が小学生の時分、お隣さんが庭に池を造り始めた。
隣人はそれ以前より、何かとこだわりを披露したがる傾向にあり、竹製の塀で囲われたお宅の庭には、松の木や、味わい深い姿の岩がいい塩梅に配置され、ちょっとした日本庭園といった趣であった。
おかげで僕は、しばらくの間お隣さんのことを茶道の師範か何かだと思い込んでいたくらいである。
実際は、普通のサラリーマンだったようだが。
とにかく。
その風流なお隣さんが満を持して池を造り始めたのだ。
僕の知る限り、庭に池があるお宅など町内には見当たらなかったので、物珍しく、工事の様子を塀越しによく眺めていた。
まず最初に、瓢箪状に大きく地面を掘る。
そこに防水シートを施し、上からコンクリートで塗り固め、不揃いの石を敷き詰めて行く。
週に何度か職人がやって来ては、作業を進めていた。
僕は羨ましかった。
何故、自分の家には池がないのか。
どうして両親は池を造らないのか。
隣の芝は青いなどと言うが、当時の僕は目玉そのものが青く染まるほど、隣家に憧れており、「大人になったらあんな家に住もう!」
そう心に誓ったものである。
ある日。
どうしても、我慢出来なくなった僕は、スコップで我が家の庭に穴を掘り、水道から水を引いてきて即席の池を造った。
縦横1m、深さも50㎝位はあっただろうか。
小学生が拵えたにしては上出来である。
家から自転車で三十分程行った所にある貯水池で魚を数匹調達し、その池に放った。
確か、鮒かブラックバスだったと思う。
しばらく泥の水たまり、もとい、自作の池を眺め悦に入り、その日は床に就いた。
翌朝。
素人仕事の悲しさよ。
当然のように、僕の池は干上がっており、掘った穴に魚の死骸が横たわるのみである。
もはや、池ではない。
“塚”である。
死骸の上空を、気の早い数匹の小蠅が衛星のようにくるくると飛び回っていた。
僕は、昨日穴を掘った時に出た土くれを、再び元に戻し、魚達を埋めた。
ちなみに、僕の暴挙の発端となった隣家の池は、その後何年間も工事は続いていたが、何故か完成の日を迎えることはなかった。
スペインのサグラダファミリア顔負けである。
父は、
「池に金掛かり過ぎて、鯉を買う金がなくなったんや!!」
と、晴れ晴れとした表情で毒づいていたが、真相は分からない。
ぬいぐるみの猫を抱き、寝息を立てている娘を見ると、憐れに思う。
しかし、いくら悩んだところで、僕の5%しか働かぬ脳味噌では答えは出ない。
お教室に通うべきは、僕なのかも知れない。
Text/山田ルイ53世