自分が鬼になりたくないから…。しつけを「委託」してきたツケ/旦那さまは貴族(山田ルイ53世)

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しつけは「鬼に委託」

叱ることに関して、我が家では長い間、鬼に委託してきた。

 

 

僕が初めて鬼の存在を知ったのは二年前である。

 

洗濯物を畳んでいる妻の傍らで、娘が人形遊びをしている。

それを眺めながら、僕は書き物をしていた。

 

「(人形を)仕舞ってから、次の遊びをしなさい!」

 

リビングに響き渡る、妻の金切り声。

歴史が証明する通り、平和は長続きしない。

見れば、床には素っ裸の人形と、注射器や哺乳瓶が散乱しており、何かの事件現場さながら。

どうやら、娘は後始末をせぬまま、次の玩具を引っ張り出そうとしたようだ。

 

 

 

 

妻の剣幕に、泣き出した娘が不憫になり、

 

「パパも一緒に片付けようか!?」

 

甘い台詞が口を衝きかけたが、母親が叱っている途中で、父親が出しゃばるのも教育上よろしくないと聞く。

 

 

ぐっと我慢し、出港しかけた助け船を港へ帰した。

何より、余計なことをすれば妻の機嫌を損ねるのは間違いない。

 

彼女のへそは、一度曲がったが最後、二日は元へは戻らぬ。

 

面倒臭いのは勘弁なのである。

 

 

泣き喚くだけで、一向に片付けようとしない娘に、

「じゃあ、玩具全部捨てるよ!?」

 

お馴染みのパッケージで叱り始めた妻。

夫婦揃って、同じパターン…お恥ずかしい。

 

しかし、

 

「ダメ―!」

 

 

「いやー!」

 

益々ヒステリックになるばかりの娘。

 

全くの逆効果なのだ。

 

 

考えてみれば、子供を取り巻く環境は苛酷である。

一つのミスで、全てを失う危険と隣り合わせの毎日。

 

 

大人などより遥かに厳しい規範の下での生活を強いられている。

その時、妻が動いた。

 

満を持して、あるいは、最後の切り札といった雰囲気を漂わせながらスマホを取り出し、娘にかざすと、

 

「鬼に電話するよ!」

 

と言い放つ。

 

するとどうでしょう。

 

 

手を離した庭のホースの様に床をのたうち回っていた娘がピタッと泣き止み、殊勝に玩具を片付け始めたではありませんか。

 

 

“アプリ”である。

 

妻子とは寝室が別々なためそれまで僕は知らなかったのだが、娘が興奮してなかなか寝ようとしない時などに、度々世話になっていたらしい。

 

“鬼のアプリ”…何やら途方もない額の課金を要求されそうな響きだが、さにあらず。

 

起動すると、

 

「プルルルルルル…」

 

電話の呼び出し音が流れた後、

 

「ガチャ…言うことを聞かない子は誰だーー!!!」

 

地の底から湧き上がってくるような低く恐ろしい声…文字通り、鬼が出てくるのだ。

 

ご丁寧に、画面には妙に生々しい劇画タッチの鬼のイラストも。

 

大人の僕でさえ、夜一人で対峙すれば寒気がする程の出来栄え。

 

小さな子供であれば、その効果は覿面である。

 

娘は恐怖し、愚図るのを止め、大人しく目を瞑るそうな。

 

何の事はない。

 

秋田の“なまはげ”と同じシステムだが、

 

「鬼来るよ!」

 

今やスマホを見せずとも言うことを聞くように。“パブロフの犬”顔負けである。

 

「こんなの子供に見せて大丈夫なのか?」

 

正直疑問ではあるが、訊けば他のママ連中も愛用しているとのこと。

 

 

 

かくいう僕も、外出前の慌ただしい時に娘に纏わり付かれると、

「鬼来るよ!」

 

 

手軽さに負け、つい言ってしまう。

言ってみれば、“しつけ”の委託。

 

外部に発注すれば、自分が鬼にならずに済むのだ。

情けない親である。

「叱らずしつけ」とは

 

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