魔法少女になった娘(4歳)が手を出した「禁断の魔法」/山田ルイ53世(髭男爵)
娘作の“魔法の杖”
今、娘(四歳)が血道を上げていること。
それは、“剣”を作ることである。
新聞紙や広告チラシの類を、対角線上に端から丁寧に丸めていく。
全て巻き終えセロハンテープで留めれば完成。
幼稚園から帰ると、納品日でも決まっているのか、毎日のように剣を量産。
戦国時代の刀鍛冶顔負けの忙しさである。
剣と聞くといささか物騒だが、そこは女の子。
お気に入りの一振りには、切っ先にハート型に切り抜いた厚紙を貼り付け、“魔法の杖”にかわいくアレンジ。
僕の娘は女子力が高い。
彼女には既に、何かのアニメ番組の玩具の魔法の杖を買い与えていたが、やはり既製品より愛着が湧くのか、最近では専ら自前の杖を使っている。
“使っている”…と言うのも、娘は魔法が大好きで、
「魔法をかけて・・・それー!」
掛け声とともに、杖を振り下ろす。
必需品というわけだ。
何かの作業中、食事中、果てはトイレの最中…此方の都合などお構いなし。
決して娘の魔法に“ノラない”妻の代わりに、僕が集中的にターゲットにされる。
「うさちゃんになれ―!」
「お馬さんになれー!」
もはや、魔法というより“無茶ぶり”だが、
「あああーーー!」
間髪入れずに我が身を震わせ叫ぶ僕。
イメージは落雷。
脳天から背骨を、抗い難き不思議な力に貫かれ、全身を硬直させる。
一呼吸置き体を弛緩させ、虚ろな目と緩慢な動きで、娘の魔法の支配下に入ったことをしっかりとアピール。
両の手の平を頭の上にかざし、
「ピョンピョーン!!」
あるいは、娘を背中に乗せ“リビングー寝室”間をパカパカパカと何往復も。
四十一歳、髭面の中年男。
難易度があがっていく魔法