「三人ではなく家族」ひとりのお正月に思うこと/山田ルイ53世(髭男爵)

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娘が数えた「かぞく」

家族三人で、風呂に入っていた。

我が家の風呂はそれほど大きくはない。

ゆえに、家族全員が同時に湯船に浸かることが出来ない。

せいぜい、二人が限度。

許される組み合わせも、「僕と娘」、あるいは「妻と娘」…要するに、大人一人と子供一人が定員であり、残る一人は、湯船の外で体を洗いながら、順番を待つ。

 

“貴族”とは名ばかりのつつましい暮らし。

しかし、十四歳から六年間に及ぶ“引きこもり生活”を送り、人生や社会から“滑落”した人間、つまり僕の末路としては上出来だ。

 

当時、娘は二歳。

“数字”とか“数える”といったことを覚え始めた頃である。

その日も僕は、風呂場で娘と数の勉強をしていた。

 

「ももちゃん、お風呂にいるの何人ですか?」

「ふたり―!」

湯船の中には、妻と娘。

正解である。

「お風呂の外にいるの何人ですかー?」

「ひとり―!」

体を洗っているのは僕一人…正解。

 

「じゃあ、お風呂に入ってる“子供”は何人ですかー?」

少し難易度を上げてみても、

「ひとりー!」

と即座に。

親バカだが、素晴らしい。

 

質問の仕上げに、

「じゃあ、みーんなで何人ですかー?」

当然、

「さんにんー!」

そんな“解答”を予想していた僕の耳に飛び込んできたのは、

「かぞくーーーーー!!」

どこか嬉しそうな娘の声。

僕は小さく、

「…正解」

と、声を絞り出すのが精一杯であった。

 

話を戻そう。

正月も終わり、一月も八日や九日辺りになると、妻と娘が戻って来る。

その頃には、世の中から正月ムードは一掃されている。

早速、妻が長電話を始める。

無事に東京に着いた報告でもしているのか。

相手は勿論、義父である。

「数時間前まで一緒に居ただろ!」

心中穏やかではないが、妻から電話を渡されれば、瞬時に愛想のアクセルを踏み込み、

「もしもしー!あーお父さん!あけましておめでとうございます!」

「いや―正月早々“長々と”お世話になってしまってすいません!!」

せめてもの一発。

皮肉の弾丸を込めてみるも、

「いやいや!まあ、折角のお正月だから、もうちょっとゆっくりしてもらっても良かったんだけどねー!ハハハハ!!」

カキーン!…見事に跳ね返される。

人間老いると、体の衰えに反して、メンタルは不死身と化すらしい。

 

不謹慎は重々承知だが、考えずにはいられない。

妻の両親は一体、あとどれくらい生きるのだろうか。

共に七十歳を大きく超えていらっしゃるが、まだまだ元気。

特に、元トラックドライバーの義父は、福島から東京まで自ら運転し我が家までやってくるほどの兵(つわもの)。

昨今の高齢者ドライバー問題など彼には無縁である。

後、十年…いや、二十年はピンピンしているに違いない。

それはそのまま、僕の孤独な正月、その刑期でもある。

十年もすれば、娘は高校生…思春期真っ只中。

「パパのパンツと一緒に洗わないで!」

「なんかパパ臭い!」

「鬱陶しい!」

もう親と正月を満喫するような歳でもあるまい。

想像するだけで、ゾッとするのだ。

残された時間が少ないのは、義父ではない…むしろ僕なのである。

Text/山田ルイ53世

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