「やっちまったなー!」地獄と化した妻の誕生日/山田ルイ53世(髭男爵)

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series_03
二月。

僕は、結婚生活始まって以来、最大のミスを犯す。

妻の誕生日を忘れたのである。

 

例年、彼女の誕生日には、僕がケーキを予約し、仕事帰りに受け取って、彼女に渡している。

恒例行事だが、僕の普段の振る舞いが功を奏し、ナチュラルにサプライズになるので有難い。

それはつまり、常日頃僕が、いかに妻に対して何もしていないかの表れでもあるので、猛省せねばなるまいが。

 

とにかく、ケーキを渡せば、

「えー!買ってきてくれたの?わざわざ予約して!?」

まるで、誰かに聴かせるかのように、妙に粒立てた言い方、大きな声でリアクションする妻。

思わず、ソファ―の物陰やカーテンの後ろに目をやるが勿論誰もいない。

他の誰かにではない。

自分に言い聞かせているのである。

彼女は、些細な幸せでも、噛みしめ、味わうことに長けた人間。

人生の燃費がすこぶる良い。

理解して頂けるか分からぬが、これは褒めている。

念のため。

 

とにかく、それなりに喜んで貰える。

プレゼントに関しては、

「自分の好きなものを買いなさい!」

と申し渡している。

「そんなの味気ない!」

「自分の為に時間と労力を使って選んでくれた…その過程が嬉しいものなのに!!」

御意見は色々とあるだろうが、そもそも不可能なのだ。

僕は給料を全て妻に渡している。

財布には、必要最低限の現金しか入っていない。

おまけに、銀行のカードも持たされていないので、自由にお金を引き出すことも叶わぬ。

全て彼女の強い希望によるもの。

つまり、妻のプレゼントを買うための金を妻に無心しなければならない境遇にある。

元は自分の金なのに、ヒモ紛いに懇願するのは避けたいし、何より、“プレゼントあげた”感が薄れてしまう。

「自分の好きなもの買っていいよ!」

の方が僕も気分が良いし、妻もそれで納得しているので問題はない。

要するに、ケーキの手配さえ怠らなければ四方丸く収まっていたのである。

悪いのは僕。

それは、重々分かっている。

しかし、妻のやり口も面倒臭いのである。

 

妻の誕生日は、二月の頭である。

一月の半ば辺りまでは、

「もうすぐ誕生日だ!」

「ももちゃん(娘のこと)!来月誰の誕生日だっけ!?」

などとアピールに余念がないが、一週間位前になると途端に口にしなくなる。

今度は一転、誕生日の気配を一切消すのだ。

これは、テストの始まり。

僕が妻の誕生日に一人で辿り着けるかどうか、気配を消し、尾行を始めるのである。

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