「何でも言い合える関係」は理想的?奥さまは一休さん/旦那さまは貴族

Pocket

おどろくべき妻の言い分

kizoku_14

あの日。

僕は一人で家にいた。

妻と娘は外出中。

昼飯でも食おうかと、食器棚から茶碗を取り出す。

その時、器の内側に触れた僕の指先に、何やら固い感触があった。

何事かと思い、目を凝らせば、米粒である。

茶碗と一体化した澱粉の塊は、完全に乾き硬質化し、少し指先に力を込めれば痛みが走るほど。

いくらカリカリカリカリしても、ビクともしない。

「えーーー……」

ちゃんと洗っていないのかと、げんなりする。

繰り返すが綺麗好き、いやもはや、潔癖症気味の僕には許し難い手抜き。

しかも、初めてではないのだ。

月に、五、六回のペースでこれまでにもあった案件である。

 

妻は食器を洗う際、あまりゴシゴシと擦らない。

軽くスポンジで一撫でし、水で濯いで終了である。

まるで、外国映画や漫画で見かける、待遇の悪い収容所。

苛酷な強制労働の後、囚人達は裸で一列に並び、歩きながらシャワーを浴び、シャンプーをし、タオルを渡され……入浴とは名ばかりの流れ作業で体を清めねばならない。

汚れも疲れも完全には取れないだろう。

別に、我が家の食器は漆塗りや有田焼、バカラの類の高級品で統一されているわけでもない。

その辺で普通に売っている、ありきたりの品である。

怖々慎重に取り扱っているわけではないのだ。

これが彼女の“やり方”なのである。

 

憤懣やるかたない僕は、妻が帰宅するや否や、

「ちゃんと洗わないと駄目でしょ?」

「米粒とれてなかったで!?」

一言、二言、さすがに抗議した。

しかし彼女は、

「大体、ご飯粒を残すような食べ方をするのが悪い!」

悪徳弁護士のような論点ずらし、まさかの反論に、

「何をゆーてんねん!ちゃんと洗えばえーやろ!?」

「汚いやないか!!」

少々声を荒げる。

(素直に謝り反省すれば、それで許すのだ!)

これで終わり。

さすがに観念するだろう。

そう考えた僕が甘かった。

「いや、それはおかしい」

僕の怒声になど全く動じない妻。

(おかしいのはお前だ!)

最高裁まで争う覚悟を決め、本気で怒鳴りつけるべく大きく息を吸い込んだその時、

「その米粒は清潔だ!」

妻の一言に僕は絶句した。

 

「そもそも、洗剤で洗われた米粒だから汚くはない!」

 

まるで、将軍様の無茶ぶりを華麗に切り返した、若き日の一休禅師。

「分かりました!それではまず、屏風の中から虎を追い出して下さい!!」

生意気な小坊主の姿が妻と重なる。

以来僕は、妻のやること、とりわけ家事に関しては一切口出しないでおこう……そう固く誓った。

将軍様のように、やり込められたからだけではない。

「何でも言い合っていては、むしろ、これまで築き上げた夫婦関係が壊れる」

という危機感もあったが、何より、

「コイツになら、自分を曲げて、折って、我慢してやってもえーか……」

そんな相手だからこそ結婚したのだとふと思い出したからである。

 

 

Text/山田ルイ53世(髭男爵)

Pocket

運営会社    お問い合わせ    利用規約    プライバシーポリシー    TOFUFUについて
© TOFUFU