「だって恥ずかしいんだもん」娘の一言に傷ついたひな祭り/山田ルイ53世

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他意はないとわかっているけれど

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さて、“雛祭り”である。

妻が張り切り、ちらし寿司をはじめとした御馳走を拵えた。

炭酸ジュースが注がれたプラスティック製のワイングラスを前に、娘も御満悦である。

普段は駄目だが、今日は特別。

行事やお祝い事の際は、食事の時にジュースを飲むことを許している。

 

一つ気になるのは、“ワイングラス”である。

用意したのは妻……僕ではない。

 

少々嫌な予感がしたが、娘の上機嫌に水を注すのは申し訳ない。

何の因果か、彼女はワイングラスが好きである。

「ねーねー?も―ちゃん(娘の自称)おねーさん!?」

“大人が使うもの”という認識があるらしく、与えると異常にはしゃぐ。

盛り上る妻子とは対照的に、僕は居心地が悪かった。

ご存知ない方は“髭男爵”で検索して頂ければ、僕の胸中も理解して貰える筈である。

 

「皆で乾杯するよー!」

妻が言い出した。

(マジか……)

嫌な予感が加速する。

(おいおい……やらせるつもりじゃあるまいな?)

妻は祝い事など、パーティー感のある席でテンションが上がると、何を思い切るのか、僕を“イジる”悪癖を持つ。

厄介な女である。

 

まさかとは思うが、もしそうなら……キレてやろう。

不穏な決意を固めたが、杞憂に終わった。

意外なことに、娘が嫌がり、乾杯の件(くだり)は中止になったのである。

(助かった……)

しかし、何やらもじもじしている娘が心配である。

「どうしたの?」

と僕が尋ねると、娘が一言、

「だってー……“カンパイ”するの恥ずかしいんだもん!!」

気まずい空気が流れた。

勿論、父親たる僕の芸風をディスっているわけではない。

そもそも、娘は僕の仕事など知らぬ。

単純に、皆で“イエ―イ!!”と言うノリ、盛り上るのが恥ずかしいということだろう。

お年頃か。

成長してきた証拠である。

他意はないのは分かっている。

しかし、少々傷ついた僕の頭に、

(その恥ずかしいヤツが、うちの主要産業……一大収入源なんだよ)

(パパは、その恥ずかしいヤツで、十年近く飯を食ってるんだよ)

(おかげで、幼稚園や習い事に通ったり、ご飯を食べたり、玩具を買ったり出来るんだよ)

葛藤に満ちた台詞が次々と浮かぶ。

口には出さぬが。

 

ふと見やれば、妻がニヤニヤしている。

率直にムカついたが、それを無視し、

「いただきまーす!さー、ももちゃん食べよう!!」

娘を促す僕。

変に間を開ければ、事態は益々僕の望まぬ方向へと動き出すだろう。

この件は、もうこれで終わり。

そんな空気を醸し出しながら、部屋の片隅に置かれたひな壇に鎮座する、平安“貴族”カップル顔負けの“すまし顔”で、御馳走に箸を付けた。

 

Text/山田ルイ53世(髭男爵)

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