ワードセンスに爆笑!四歳児の意外な願い/山田ルイ53世
所変われば品変わる
数年前、僕はとあるロケの仕事で、南アフリカに訪れた。
巨大ザメを“触りに行く”という企画である。
空港に降り立つと、警官の姿が目立つ。
現地のコーディネイター曰く、
「今度、サッカーのワールドカップが開催されるので、警備が厳重なんです!」
いや、それにしても多い。
漫画『こち亀』さながら、視線の先には、必ず警官がいる。
中には、犬を連れた者もいる。
「うわっ!麻薬犬だ!!」
僕が叫ぶと、
「あれは、違います!」
前出のコーディネイター氏が説明してくれた。
最近、この国では『養殖した“あわび”の違法な輸出』が問題となっており、それを水際で食い止めるのが、犬達の役目なのだと。
「“麻薬犬”ではなく……“あわび犬”です!」
彼に他意は全くないが、奇しくも帯びたセクシーな語感に、僕は胸をトキめかせた。
お国が変われば、犬の嗅覚の利用法も随分と違ってくるようだ。
『所変われば品変わる』
国だけではない。
一つ一つの家庭も同じ。
特に、子供の教育方針、親の姿勢は様々である。
先述の○○さんの娘は、僕の娘と同い年。
今では、同じ幼稚園に通っているが、“お受験”経験者でもある。
本来は、芸能人が通う様な、“ミッション系の私立”とやらに通わせたかったらしい。
端くれとは言え、僕も芸能人。
“芸能人の通うような”の一点突破であれば、夢は既に叶っているのだが、彼女がその幸運に気付くことは無い。
妻の話にしばしば登場するので、つい顔見知りのように錯覚してしまうが、僕と○○さんは面識がない。
理由は、勿論、“バレたくない”からである。
いずれにせよ、
「次は小学校!」
その鼻息は未だ荒い……らしい。
僕は、“お受験”といったものには、興味がないし、ましてや、昨今話題の、子供を片っ端から東大に送り込もうという、何処か偏差値が低そうな情熱は持ち合わせていない。
要するに、あまり教育熱心ではないのだが、僕の一存で、娘にトリッキーな人生を歩ませるのも気が引けるので、
「“普通の御家庭”がやってそうなことは、やらせよう!」
何とも頼りない教育方針でお恥ずかしいが、妻も似たような考え。
そんなもんだ。
反面、娘自身は勉強が好きで、朝食の前に、リビングのテーブルで“国語”や“算数”のプリントといつも格闘している。
週に一、二度通っている教室の宿題。
と言っても、薄く印刷されたお手本の文字をなぞる“国語”、問題は全て“+1”の“算数”だが。
“+1”の数式がズラリと並んだ紙は、何やら哲学的なメッセージのような印象を受け、少々不気味だが、無心に取り組む娘を見ていると、どこか誇らしく、浮かれた気持ちになるのもまた事実。
この延長線上に、“お受験”や、“東大”があるのかもしれぬ。
しかし、所詮は四歳の子供。
集中力は長くは持たない。
途中で勉強を放棄し、愚図り始めることもよくある。
すると妻が、
「もう!ももちゃん!真剣にやらないならもう△△(教室)行かなくていいから!!」
と怒鳴り始めるのだが、これが、聞くに堪えない。
内容と言うより、その周波数が。
怒っている時の妻の声は不快である。
神が何のために、彼女の声にあの“ヘルツ”を授けたのか理解出来ない。
少し離れた自室で聞いている僕ですらかなりのストレスを感じる。
ドアや壁で濾されているのにだ。
直撃される娘の苦痛は如何ほどだろうか。
ストレスで破壊される脳細胞の数が、勉強の効果を上回らぬか心配である。