ワードセンスに爆笑!四歳児の意外な願い/山田ルイ53世

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四歳児の意外な願い

その日。

娘が勉強するのを隣で眺めていた。

階下で洗濯物の真っ最中の妻に、

「ちょっと、ももちゃん見てて!」

と頼まれたからである。

一、二枚、ひらがなの練習をした所で、娘の集中力が切れる。

どうも、僕が横にいると、遊んで貰えると思うようで気が散るらしい。

勉強を放棄し、ソファ―にうつ伏せになり、愚図り始めた。

「ももちゃーーん!?」

何度呼び掛けても、

「んんんん……」

娘の反応は薄い。

僕は焦っていた。

妻に気付かれれば、またあの音波攻撃に晒される。

それだけは勘弁だ。

しかし、そろそろ洗濯物を終え、リビングに戻ってくる頃。

時間が無い。

「ももちゃん!?お勉強好きでしょ?」

「じゃあ、早く終わらせて、パパと縄跳びしようか!?」

「今日、お外にご飯食べに行こう?」

考えられる取引材料を全て提示しても無駄。

全く動かない。

それどころか、ソファ―に顔を埋めたまま、

「ふふふふーん、ふふふーんふ、ふんふふーん♪」

と鼻歌を歌い始めた。

おそらく、最近幼稚園で覚えた、『北風小僧のかんたろう』である。

「ふんふふーん(かんたろー)♪」

の後に、しばらく間を置くところを見ると、僕にコーラスの、

「かんたろー♪」

をやって欲しいのか。

もう少しでノリかけたが、それをすると、ただただ楽しいだけの時間となり、娘の興は買えるが、教育上よろしくないのでは……そう思い、僕は初めて強硬手段に出た。

おそらく、尾木ママあたりには、怒られそうだが、

「分かりました!嫌ならもうやらなくていい!!教室も、もうやめなさい!!」

そう言い放つと、テーブルの上のプリントを鷲掴みにし、ゴミ箱へと投げ捨てたのである。

僕は滅多に声を荒げたりしないので、さぞかし効果覿面だろう……甘かった。

「ギャーー――――――!!!」

火が付いたように泣き始める娘。

いや泣いているというより、怒り狂っている。

ソファ―に背中をあずけ、足先をテーブルにあてがい、一息に“ピーン”と体に力を込めると、激しく揺らし始めた。

それが終われば、床に飛び降り転げ回って、

「やーめ―て――――!!!」

近隣住民に通報されかねない勢いで絶叫する。

かと思えば、そこら中を走り回り、壁に激突したり、ぬいぐるみを僕に投げつけてきたり。

もう滅茶苦茶。

物の道理は落ち着いてから言い含めれば良い。

今はとにかく、この荒ぶる神を鎮めなければ。

未だ娘は、船の甲板に引き上げられた獰猛なサメのように床でのたうちまわっている。

遠い南アフリカの海で出会った本物と比べても、遜色のない暴れっぷり。

僕は意を決して、

「分かったから!パパが悪かった!ごめんごめん!!」

彼女を捕まえ、ギュ―っと抱きしめる。

少しは大人しくなるか……と思った次の瞬間、

「かーしこーくなーりたーいの―――――――!!」

魂の咆哮。

僕の腕の中の小さな熱い塊は、二宮金次郎ではない。

娘である。

「賢くなりたい!」

という四歳児らしからぬモチベーションと、そのワードセンスに思わず笑ってしまう。

「ごめんごめん!じゃあ、パパと一緒にやろう!!」

背中をさすり、なんとかもう一度机に向かわせることに成功した。

(もっと上手く出来ると思ってたのにな―……)

賢くなりたいのは、いつも親の方である。

今はただ、階下の母ザメの耳に、娘の声が届かなかっただけでもよしとすべき。

我が家の古くなった洗濯機、その騒音に感謝である。

 

Text/山田ルイ53世(髭男爵)

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