親の尊厳など感じていない「娘の人差し指の行方」/山田ルイ53世
ある日。
僕と娘はソファ―に陣取りテレビを見ていた。
と言っても、どこかのアイドルグループのような衣装に身を包んだ女の子数人組が活躍する、子供向けのアニメ番組。
僕はボーッと眺めているだけ……正直、手持無沙汰である。
魔法で変身すると、効果のほどがよく分からぬ、雰囲気重視の必殺技の名を叫び悪と闘う。
加えて、彼女らはパティシエでもあり、普段は洋菓子店を営んでいるそうな。
“マーケティングの集大成”……詰め込み過ぎた数々の設定で、我が家の薄型テレビが破裂しそうだが、子供には丁度いい塩梅らしく、大人気。
事実、隣の娘を見やれば僕とは違い真剣そのもの。
時折、
「今のは、本当は悪い人なんだよ!」
とか、
「あのオレンジ色の女の子が一番好き!!」
などと、解説してくれるが、その眼差しは画面に釘つけ。
口元は半開きで、今にも涎が垂れそう……要するに集中している。
十数分前、
「パパ―、一緒に見よう!」
と娘から誘ってくれた割には、一向に父には構ってくれぬ。
「もーちゃん(娘のこと)、今の人は仲間!?」
などと話かけてみても無言でスルー。
『プリキュア』、恐るべしである。
仕事に出かける時間が迫って来たので、
(準備しないと……)
腰を上げかけたその時、目の端で何かが動くのを感じた。
娘である。
相変わらず、顔はテレビのある方向に固定され微動だにしないが、彼女の右手だけが別の生き物のようにゴソゴソと動いている。
開かれていた指の一本一本が、掌の中心に向かってゆっくりと折り畳まれていき、人差し指を残して全てが握りこまれた。
幼き頃意味も無く触れては反応を楽しんだ“オジギソウ”を思い出す。
最近見かけない。
1 2