肝に銘じておきたい「子供は親の魚拓」/山田ルイ53世

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制御不能のモンスターが登場

 

「そろそろ持ち時間も終わりか……」

と安堵しかけたその時、

 

「死ねー!だまれ―!!」

「うるせ―!!うるせーーー!!」

 

耳を疑う様な罵詈雑言。

剥き出しの悪意を纏った野次、その声の主に僕は愕然とした。

いや営業の現場では、制御不能のモンスター、厄介な客に遭遇することはままある。

しかし、それは酔っ払いの中年男、あるいは、思春期真っ只中の中学生といったところが定番であり、今僕の目に映っている……五歳位の男の子ではない。

「うるせ―!死ねー!!」

悪霊に取り憑かれた様に叫び続ける五歳児からは、殺意さえ感じられた。

「ごめんね―!もうちょっとで終わるからね―!!」

強引に口角を上げ、作り笑顔に猫撫で声で宥めると、

(痛っ!!)

何か小さくて固いものが、僕の頬や額に次々と当たる。

件のガキ、もとい男の子が何かを投げつけているのだ。

僕の体で跳ね返り、床に散乱した“それら”の一つを拾い上げると……“首”である。

 

手の平サイズの人形の首の部分だけ。

彼のズボンのポケット、その膨らみの正体は、おそらく首と同じ数の胴体であろう。

背筋が凍る。

「うるせ―!死ねー!」

呪詛の言葉の合間に、首を投げつける猟奇的な子供。

もはや、“チャッキー”と変わらない。

 

(何なんだこいつは……)

 

お客様のお子様に失礼千万だが、

「一体、どう躾けたらこんな子供に……」

五年しか生きていない人間の性格や行動を形成する材料は家庭環境、つまりは親でしかない。

謂わば、親の言葉遣い、感性、生き様……その魚拓が子供である。

あくまで人様の御家庭のこと。

とやかく言うつもりはない。

しかし、

「うわー……みっともないなー」

そんな思いは禁じ得ない。

 

帰宅すると、

「パパ―!お土産はー?」

娘が出迎えてくれる。

(お土産……)

確かに、約束したような気もするが、バタバタした一日だったので失念していたようだ。

その旨を彼女に伝えると、

 

「ま゛っ―!!!うそつきなんですけど!!じごくにおちるんですけど!!」

 

奇しくも彼女も五歳。

その口調、特に“ま゛っ!!”という不満気な台詞……いや、“音”は妻の十八番のものである。

耳にする度僕の脳細胞が何個か死滅しているに違いない不快な“あれ”に生き写し。

『亡き妻の』という話であれば、

(はっ……あいつと同じだ)

少しは美談の香りも漂ってこようが、彼女は勿論ピンピンしている。

使われる文脈はここでは御容赦願いたいが、“じごく”、即ち“地獄”は僕の口癖である。

(我が家も気を付けねば……)

そう肝に銘じるばかりである。

 

Text/山田ルイ53世

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