忙しさから娘のガス抜きをしなかった代償/山田ルイ53世

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福島県でのイベント出演の仕事を終え新幹線で帰京。

改札を出ると、妻が車で迎えに来ている。

有難い。

僕が助手席に乗り込むと、すぐさま発進。

別に、次の仕事や楽しい遊びの予定が控えているわけではない。

向かう先は我が家……自宅に直行するだけである。

しかし、僕は若干ワクワクしていた。

 

俗に言う、“地方営業”に出掛けると、大抵の場合、一日仕事となる。

帰宅は深夜というのがお決まりのコースなのだが、その日は東京駅に到着したのが午後4時前……まだ日は高かった。

(何か得したなー!!)

と小市民的な高揚感に包まれている僕の背後から、

「あーあー、ツマンナイな―!」

心臓を串刺しにするかの様な、溜息交じりの声。

些か、咎める調子を含んだクレームの主は……娘である。

無理もない。

父を迎えに行くと連れ出され、合流するや否や、元来た道を引き返すだけの単調なドライブ。

往復一時間以上の道程を、終始後部座席で大人しくしているだけでは、何とも味気ない。

 

僕は娘に対して負い目……慢性的な罪悪感に苛まれていた。

と言うのも、スケジュールが折り合わず、今年の彼女の夏休みは旅行はおろか、ちょっとした遠出も叶わぬまま終了していたのだ。

家族皆での外出と言えば、近所の食事処に出掛けるのが精々。

数日前に催された幼稚園の運動会も、仕事で長崎に行っていた為、顔を出せず仕舞い。

せめて、公園で一緒にかけっこの練習をしようと言う約束も、幾度となく反故にしていた。

彼女はまだ五歳……いや、もう五歳である。

その認識能力の向上は著しい。

僕は、常日頃から、自分の芸人という職業を娘にひた隠しにし、“変則的に働くサラリーマン”で通している。

稀に、僕が出演するテレビ番組を目にした娘が、

「あー、これパパだ―!」

などと騒ぎ出しても、

「違うよー?似てる人だよー!?」

と恍けて来たが、もはや、下手な誤魔化しや隠し事は通用しない。

その証拠に、最近彼女が描く似顔絵の僕は、漏れなくシルクハットを被っている。

 

日頃からの罪の意識と、早く仕事が終わった解放感も手伝って、

「じゃあ、今日は“おそとごはん”にしようかー!?」

娘の御機嫌を取るべく提案すると、

「ウッヒョーーー!イエーーーイ!!」

漫画の登場人物以外で、“ウヒョ―!”などと叫ぶ人間が、しかも身内に実在したのも驚きだが、サンシャイン池崎顔負けの“イエ―――イ!!”に気圧された僕は、

(……もうこれは、絶対に撤回出来ない!)

すぐさま腹を括り、算段を巡らせ、とある高層ビルに向かうことにした。

そこは、上層階がレストラン街になっており、見晴らしが良い。

娘も満足することだろう。

 

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