「パパ、ルネサーンでしょ?」湖上のボートのように心が揺れた箱根旅行/山田ルイ53世

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series_03

 

十一月末。

家族三人で旅行に出掛けた。

別に、胸を張って言うことでもない。

休暇をとってハワイへ……そんな芸能人っぽい大層な話ではなく、箱根の温泉。

とは言え、我が家にとっては二年振りの家族旅行であった。

 

“一発屋”の悲しさよ。

当然、スケジュールは真っ黒とはいかぬ。

空白を埋めるためには、“急なオファー”にも対応しなければならない。

今までにも、何度か旅行の計画は立てたが、

「ちょっとしたロケなんですけど来週の月曜行けます?」

「急遽営業入ったんですけど、明日大丈夫ですか?」

おそらく、他の誰かの都合が悪くなったのだろう。

バレーボール選手のように、こぼれ落ちてくる仕事をレシーブし続けた結果、

「ごめん……仕事入ったから行けなくなった……」

計画は頓挫し、家族サービスもままならない。

しかし、今回は首尾よく何の仕事も入らず。

良いのか悪いのかはさて置き、晴れて、久し振りの家族旅行と相成ったのである。

 

そんな経緯もあり、一泊二日の小旅行にも拘わらず、妻と娘は大喜び。

自然、僕も気合が入る。

宿は奮発し、芦ノ湖が一望できる高級旅館を予約。

更に、妻にはオプションで“エステ”もプレゼント。

勿論、娘の要望にも出来る限り応えた。

 

道中公園に立ち寄ってキックボードの練習をしたり、ケーブルカーに乗ったり。

公民館のような場所で、工作教室にも参加した。

どんぐり、まつぼっくり、葉っぱや木の枝……森の様々な素材で、高さ10㎝程の竹筒を飾り付けし、オリジナルのペン立てを作る。

木工用ボンドと格闘したのは三十年振り。

面白かった。

 

昼食は湖畔のお洒落なイタリアンレストランへ。

評判のピザを食べ、妻も娘も御機嫌である。

旅館のチェックインまでまだ時間があったので、湖を眺めながら散策していると、僕の腰のヘルニアが悲鳴を上げるが、おくびにも出さない。

 

「海賊船乗ろうよ!」

妻の提案で、湖を横断する遊覧船の切符売場へ。

彼女の言う通り、海賊船を摸した外見で人気らしい。

しかし生憎、大挙して訪れていた中国人観光客の団体様に占拠されており泣く泣く断念。

「あーあ……かいぞくせんのりたかったのにー!」

愚図る娘を宥めすかしていると、湖面に浮かぶ小ぶりの白い船体が目に入った。

スワンボートである。

 

「あの白鳥さんのヤツ乗ろうか?」

娘に持ち掛けると、

「のるのるのる―――!さんにんでのる―――!!」

まんまと機嫌が直った。

気が変わらぬうちに、海賊船……もとい、遊覧船の船着場にほど近い、ボート屋へと向かう。

桟橋の手前にテントがあり、そこには五人のお婆さんと初老の男が一人、“町内会のお祭りの詰め所”といった風情で古びたストーブを囲んでいた。

おそらくここが受付だろう。

リーダー格と思われる初老のオヤジの前に立ち、

「あのー、(ボート)乗りたいんですけど―……」

と話かけると、彼はカップヌードルのシーフード味を食べる手を休めることなく、

「……30分、1500円!」

と僕に告げる。

人生初のスワンボート。

(コッチの料金の方がよっぽど“海賊”やな―……)

相場感覚の無い僕の頭に、“ぼったくり”という言葉が過るが、勿論口には出さない。

 

それにしても客前で堂々とカップ麺……地元の老人達の小遣い稼ぎにプロ意識など求めても仕方がないが、せめて箱根・大涌谷の名産、“黒たまご”でも食べていて欲しかった。

料金を支払い、

「あの、僕体重130kgありますけど大丈夫ですかね?」

念のため確認すると、

「あー、大丈夫!」

スープを飲み干しながらの返答は、説得力に欠けるが、

「はい、此方へどうぞ―!」

と桟橋を歩き始めたオヤジの後を、

「パパはやくはやくー!」

大はしゃぎでついていく娘に急かされ、ボートに乗り込む。

 

座席はハンドルを中心に右と左に分かれており、其々の足元にペダルがついている。

これを漕げば、前進・後退が思いのままという仕掛け。

バランスをとるため、左側に僕、右側に妻と娘の二人が座り、

「はい、行ってらっしゃーい!」

オヤジの声を背中に受け、山田スワン、出航である。

 

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