「一生食べるんだから!」思わぬ変換をされた妻の料理への意見/山田ルイ53世

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一発屋とは言え、正月は何かと忙しい。

スーパーやショッピングモールの初売りイベント、企業の新年会のパーティー……いわゆる“地方営業”のオファーが目白押しである。

有難い。

今年も元旦からの一週間、仙台→函館→甲府→姫路→女満別(北海道)→神奈川と地方行脚が続いた。

連日遠出し、仕事を終え、東京の自宅に戻る生活を繰り返していると、いつしか感覚の軸足は逆転し、毎日“上京”しているような気分になる。

 

正月は、帰宅しても一人。

毎年、大晦日から年をまたいでの数日間、妻は実家へ戻る。

娘が生まれてからも、その恒例行事に変化はなく、子連れで里帰りするため、僕は家族と正月を過ごしたことが一度もない。

人気の無い家で、年賀状を僕宛のものと妻宛てのものとに仕分けるのが、唯一正月らしい作業となる。

妻宛ての年賀状は、ほとんどが幼稚園のママ友からのもの。

「こんなに大きくなりました―!」

という子供の写真か、

「○○家一同、今年もよろしくお願いします!」

家族総出の一枚が印刷されているのが定番である。

それらを眺めていると、余計に一人が身に沁みる。

 

世間の正月ムードが薄らいでくる頃、ようやく家族が帰って来る。

玄関のドアを開け、出迎えると、

 

「ごはんつくってあげようか―!?」

 

『両親が法事で家を空け、一人の晩飯をカップ麺で済まそうとしていた男子高校生の前に突如現れたクラスメイトの女子』……ライトノベル感溢れる発言の主は妻ではない。

現在五歳の我が娘である。

子供らしからぬ彼女の発言には、前フリがあった。

 

クリスマスのご馳走

 

話は一月ほど前に遡る。

 

2017年のクリスマス……その日、娘は上機嫌であった。

と言うのも、朝目が覚めると彼女の枕元に、長らくご所望だったリカちゃん人形が置かれていたからである。

娘曰く、サンタなる人物からのプレゼント。

ちなみに、“リカちゃん”と書いたが、正確には“さくらちゃん”である。

リカの友人だという彼女の本名は、『キラチェン さくらちゃん』

何かのイベント開催時、幕張近辺で散見されるような青い髪の女の子で、コスプレ感が尋常ではないが、これが優れ物である。

付属の“キラチェンライト”を頭に押し当てるとあら不思議……ライトと接触した部分の髪がパープルに変化し、メッシュヘアーなど、様々なお洒落を楽しめる。

 

毎年、親戚でもない“赤の”他人から金品を貰うというのは、子供の教育上あまり良くない気もするが、娘が幼稚園の友達に、

「サンタなんていないよ!?」

などと口走り、周囲の顰蹙を買うのは避けたい。

人形と戯れ大喜びの彼女を横目に、僕は仕事に出掛けた。

 

帰宅すると、リビングのテーブルにはご馳走が並んでいる。

中でも目を引くのは、食卓中央に鎮座しているケーキ。

直径10㎝程度の小振りのホールケーキで、色付きのクリームで拵えたクリスマスツリーや雪ダルマの飾り付けが見事である。

「おー!買ってきたの!?」

妻に問うと、

「ちがうよ―!つくったんだよ―!!」

と何故か娘が返事をした。

聞けば昼間、クッキングスクールに出掛けたという二人。

驚くべきことに、妻は一切手を出さず見学していただけだとのこと。

パティシエの先生に教わりながら一人で仕上げた、正真正銘、娘お手製のケーキであった。

 

あまりの出来栄えに、

「うわー、ももちゃん凄いね―!!」

と褒めちぎっていると、

「いまから、おすしもつくるからねー!」

……益々張り切る娘。

なるほど、見れば、桶に入った酢飯と、スーパーで買ってきた刺身が既に準備されている。

「も―ちゃん、おすしやさんだよ―!」

大はしゃぎでシャリを手に取ると、小さな手で形を整え、その上に刺身をのせていく。

(いや、握りか……)

“ちらし”か“手巻き”と思ったら、まさかの“握り”。

不安ではあるが、元来、粘土細工などの工作、造形の類は得意な彼女。

娘の“仕事”を信用する他ない。

 

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