「しずんだらたいへんじゃーん!」5歳の娘がみせた才能の片鱗/山田ルイ53世(髭男爵)

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飛ばんとしゃーない

 

話を戻そう。

念願の水中メガネを装着し、然程大きくもない我が家の湯船で、何やらバシャバシャとプール気分を満喫する娘。

時折、湯に浸けた顔を右に左にと動かしているが、魚や、複雑な海底の地形が拝めるわけでもない。

所詮はただの浴槽……殺風景である。

それではつまらないだろうと、

「何か“宝物”を入れてみたら?」

と彼女にアドバイスする。

 

小学生の頃。

水泳の授業で、プールの底に小石やおはじきを沈め、“宝物”と称し我先に拾い集めたりした、あれである。

「え――!?宝物!?」

娘の表情がパッと明るくなった。

あれこれ説明するまでも無く、僕の考えを察した娘は、

「それいいかんじだねー!?わかった―!!えーっと―……」

浴槽の縁を跨ぎ、洗い場へ出てくると、床に置かれたバケツをゴソゴソと漁り出した。

中身は、彼女お気に入りのお風呂用のおもちゃ。

そこから幾つか選び、次々にお湯の中に投入するが、これがいずれも沈まない。

基本、風呂周りのグッズは、浮くように出来ている。

しかし、水中メガネで愛でるためには、“宝物”は沈んでいなければならない。

苛立った娘が、

「も――!!ぜんぜん“した”にいかない!なんでー――!?」

母親譲りのヒステリーを爆発させた。

妻の金切り声はJアラートさながら、僕の肝をキンキンに冷やすが、娘のそれは無害。

むしろ、心地良い。

僕は、まず“したにいく”ではなく“しずむ”であり、その反対は“うく”というのだと即興の国語の授業を施した後、

「水より軽いからだよ!」

湯船に漂う、スーパーボールや、空の水鉄砲、何かの人形の類が、一向に沈まない理由を解き明かした。

「へ―、なるほどね―!」

口の利きかたこそ生意気だが、

「じゃあ、お――っき―――ものは“しずむ”ってことだね!」

続いて披露した自説は、子供らしさ全開。

勿論、5歳児に“浮力”が理解出来るとは僕も思っていない。

それは、もはや一握りの天才。

娘は、正真正銘、平凡である。

とは言え、僕も中々の親バカ。

偉人達に付き物の、『幼少期に天才の片鱗を垣間見せるエピソード』、その主人公に自分の子供が抜擢されることはない……とは言い切れぬ。

一縷の望みを託し、

「だけど、船はあんなにおっき―のに浮いてるよね―?何でかな―?」

そんな問いを投げ掛けてみた。

こういうやりとりが、子供の考える力を育てる……何処かの誰かが言っていた気がする。

すると娘は、

「ハハハハハ!そんなの当たり前じゃ―――ん!」

娘の語尾がすっかり“じゃん”化している事実に、関西出身の僕が、少なからずショックを覚えたことは今はどうでも良い。

何より、僕が衝撃を受けたのは、

「だってさ―、おきゃくさんがいーっぱいのってるのに、しずんだらたいへんじゃーん!」

という、一休さん顔負けの、とんち感溢れる娘の返しにである。

 

お笑い史に名高い、『飛ばんとしゃーない』というネタを御存じだろうか。

詳らかに説明するのも野暮だが、

「飛行機ってなんで飛ぶと思う?飛行機が滑走路走っていくやろ?どんどん滑走路なくなるやん?……飛行機、飛ばんとしゃーないやろ」

言わずと知れたレジェンド、『紳助竜介』の漫才、その一節だが、件の娘の発言はまさしく、『飛ばなしゃーない』ならぬ、『浮かなしゃーない』であった。

 

もしかすると、彼女にはお笑いの才能があるのかもしれぬ。

しかも親のようなコスプレキャラ芸人ではなく、正統派の漫才師の。

正直、芸人になどなって欲しくは無い。

しかし、万が一そうなった暁には……スーツでも買ってやろう。

アルマーニでも、シャネルでも何でも御座れである。

Text/山田ルイ53世

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