『もう家族なんだから』は相手を配慮しない理由にはならない。/元鈴木さん
私達夫婦は年に数回、喧嘩をする。
どれも本当に下らない理由なのだが、大概がどちらかの言葉が足りないことで起こる。
例えば、我が家では猫のみーだんを飼い始めたため、テーブルにご飯を置いときっぱなしにはできない。
みーだんがご飯にちょっかいを出すからだ。
そのため『みーだん見張り隊』と呼ばれる、みーだんの相手をしてテーブルのご飯から気をそらし、食事を守るポジションがある。
隊と言うものの、実質私達どちらかの1人なので『みーだん見張り員』の方が近いかもしれないが、そこには目を瞑っていただきたい。
先日、それが原因で喧嘩が起きた。
全てはすれ違いから
私が夕食の最後の1品を作っていた時のことだった。
サラダを作り終えたゴリラが「最後に一気に持っていくからソファーでゆっくりするね」と言ってリビングに行ってしまった。
私はしばらくして「ソファーにいくなら、全部持っていって、そこでみーだん見張り隊をすれば解決ではないか?そうすれば私が最後の一品を持っていけばすぐに食べられるのではないか?なぜ今日に限って見張り隊をやらないのだ?」という考えが頭の中でぐるぐる巡り、
「あのさー、どうせソファにいるなら全部持って行ってよ」と何も考えずに言ったことが間違いだった。
彼は「後で全部運ぶって言ったじゃん!」と言うと、プリプリ怒りながら出来上がった皿を全て持っていった。
更にそれだけでなく、ソファーに溜まっていた洗濯物も急に片付け出したのだ。
みーだんを見張らずに。
「見張らなきゃ意味なくないか?」と思ったが、そこで私は気づいた。
彼は私の言葉を「ソファーでアニメ見てんじゃねーよブタ!働け!!」と受け取ったのだと。
私は効率の問題について言及したまでだったのだが、私の言葉が足りなかった。
しっかりと、「ゴリラがご飯を持っていけばすぐ食事ができる」というメリットを説明すればこうはならなかった。
ヘタをこいてしまった。
更に、彼は全力で意地悪を仕掛けてきた。
私の洗濯物だけを残して自分の洗濯物を片付け、
みーだんを見張らないのは私に働けと言われたせいなので、テーブルの食事に何が起きても責任は取らないという意思が透けて見えた。
そして最後の一品ができても席に着かず、わざとらしく片付けをしていたので、私も頭にきて待たずに食べたのだった。
こいつぁなんて意地の悪いゴリラなんだ!と思ったが、そもそも私の配慮のなさからの諍いだったので私は謝ろうとした。
しかし、そんな思いとは裏腹に、さらに事態を悪化させてしまった。
私はうっかりゴリラの手の内を全て言語化してしまったのだ。
「あのさ…、私の言い方が悪かったから多分勘違いしたと思うんだ。働けブタって意味じゃなくて効率の問題だったんだ。ごめんね。」
とここでやめておけば良いものを、
「でも、急に洗濯物を片付けだしたりしたのって、私に働けって言われたと思ったからだよね?俺は働いてるって主張ってことだよね…」
と余計な一言を付け加えてしまったがために、ゴリラはプイッとそっぽを向いてしまった。
理解しようと努めたつもりの一言だったが、「ジャングルのゴリラの思考回路くらいお見通しよ」と言われたような気持ちにさせてしまったのだろう。
完全に裏目に出てしまった。
オア〜やっちまった〜!
と思ったが後の祭りである。
本当にうまくいかない日は、何もうまくいかないものだ。
結局寝る前までに冷静になったであろうゴリラが、
「ねこちゃんが歩み寄ろうとしてくれたのに、冷たくしてしまった。ごめん。」と謝ってきた。
その日、私はどうやら壊滅的に思慮が及ばないデーらしかった。しまいには「私こそ、あなたのプライドをへし折るようなこと言ってごめん」なんて更に追い討ちをかけるようなことを言ってしまいそうになったので、もうあまり多くを語るのはやめてシンプルに謝ったのだった。