大切な人と生きていくためにはフリーターではいられなかった話/元鈴木さん
そうして迎えた人生最悪のクリスマス
クビになったのは、ゴリラと付き合うことになったすぐ後で、クリスマス前だった。
もちろん、私には充分すぎるほどクビになる要素があったのは理解している。
しかし、たとえクビになっても、きちんとした方法でクビになっていたらこんな思いをしなくても良かったはずだった。
クビになる前から、「クリスマスは私がご馳走作るね」とゴリラに前々から言っていた。
ゴリラが楽しみにしていたので食事はなんとしても用意したが、プレゼントは買うことができなかった。
急な解雇だったため、私は何の用意もできなかった。
しかし私は、クリスマス当日まで平気なふりをした。
急にバイトをクビになってカツカツだなんて泣き言は、できれば言いたくなかったからだ。
だが、ゴリラと並んでご馳走を目の前にすると、どうしても涙が堪えられなかった。
つまらないバイトを解雇されただけで、自分の人生をこうも簡単に揺さぶられてしまうことが情けなかった。
そして、それにゴリラを巻き込んでいるということが、何よりも悔しかった。
大人の女がわんわん泣き出したので、ゴリラは驚いていた。
「プレゼント買えなくてごめんね」と何度も謝った。
ゴリラは「いいんだよ、気持ちだけでも嬉しいよ」と抱きしめてくれた。
テーブルのクリスマスチキンとパスタが、静かに温度を失っていくのを感じながら、私は心の中で「もうこんなクリスマスは繰り返さない」と誓った。
私史上最も悲惨なクリスマスの思い出は、こうして生まれた。
フリーターは使い捨てだった
アルバイトだろうと、解雇するには、日雇いや試用期間中でもなければ「今日でクビ」スタイルは日本では認められていない。
本来なら1カ月前に通知をするか、どうしてもすぐにクビにしたいなら解雇通知手当てというものを支払わなければならない。
即日解雇は労働基準法違反だ。
私はそれを知らなかったために、言われるがまま次の日からお店に行くのをやめた。
きっと書類上では、私が無断欠勤したこととして処理されているだろう。
気付いた時にはもう遅かった。
もし労働基準監督署に行くと伝えていれば、過去3ヵ月の給与の平均を解雇通知手当てとしてもらえた。
クリスマスにプレゼントも買えたし、あれから6年経っているのにこんなことを毎年思いださなくても済んだ。
知っていると知らないでは、全く違う結果が待っていた。
私はクビになってやっと、フリーターで無知では、自分の人生をコントロールする手段を持てないのだと気づいた。
そして、もう二度とゴリラに余計な心配をさせてはいけないと思った。ゴリラとの将来を考えれば、これは私だけの問題ではなかった。
私は、今後どう生きたいかを考える必要があった。
仕事を選ぶことは、自分だけの問題ではなかった
それからの私は、展示会などに派遣される英語コンパニオンを経て、ライターとなり、今年は自分の会社を作った。
来年は私のコルセットのブランドをローンチする。
これも、私の記事を読んでくださった皆さんと、私のことを心配しゴリラが側にいてくれたおかげだ。
正直私は、私のことを好きだと言ってくれる人がいて、初めて自分のことをまともに考えられるようになったと思う。
ゴリラがいて初めて、自分を大切にしたいという気持ちが私の中に生まれるのを感じた 。
悲しい時に悲しみを共有するのが夫婦なら、なるべく自分が幸せでないとパートナーを幸せにできないと気付いたのだ。
どんなことが出来て、どんなことが嫌で、ストレスと給料のバランスはこうで…と自分のために仕事を選ぶことが、遠からずパートナーを大切にすることなのだと長くかかったがやっと気づいたのだった。
あのまま何も考えずにヘラヘラ生きていたら、誰も幸せになっていなかっただろう。
…そう考えると、自分について考える機会をもらったという点で私は不当解雇されて良かったのかもしれない。
赤坂のまずい鶏肉屋よ、クビにしてくれてありがとう。
未払いの解雇通知手当ては、いつでもいいから口座に振込んでおいてくれ。
Text/元鈴木さん
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