奥様、家内、ママ…私を取り巻く呼び名と不安感の正体/元鈴木さん
以前の記事にも書いた通り、みーだんと名付けられた子猫は、犬派だったゴリラを完全に骨抜きにした。
ゴリラは子猫に対して父性だか母性だかを爆発させ、「パパでしゅよ…」とすぐに自己紹介をしていた。
その瞬間、私は自動的にママとなり、産んでもいない子猫の母親になったのを感じた。
ゴリラが「ママのところに行っておいで」と言ってみーだんをこっちによこしたりすることも増え、現在私はすっかりみーだんのママだ。
けれど、いつか猫のママではなく「子供のママ」と呼ばれることに不安を感じるのだ。
思い出したのは大学の親友
ママと呼ばれることに不安を感じたときに思い出したのが、親友との会話だった。
仮に彼女の名前をゆかとしよう。
先日、彼女を家に招いて夕食をした際に、大学時代のサークルの話題になった。
彼女は最初に音楽系のサークルに入ろうとしたのだが、結局入部はしなかった。理由は、女の先輩から『ゆかっぺ』と呼ばれたからだったと言う。
呼ばれた瞬間、彼女は「ここにはもういられない」と直感したと言うのだ。
何がいけないのかサッパリ分からない方も多いと思うが、私には彼女の気持ちがわかった。
私は部活で1人の同期から『まりっぺ』と呼ばれていたからだ。
私はその子からまりっぺと呼ばれる度に、なんとなく気持ちが落ち着かなかった。
最初に「まりっぺだけは勘弁してくれ」と言っていれば済む話だったのだが、何となくそのままそう呼ぶことを許してしまった。
馬鹿にしているわけでもなく、親しみを込めて呼んでいることは理解していたので、よしてくれと言うのもなんだか変な気がしたのだ。
たしかに私の本名はまりかだ。
まりっぺもあだ名としては十分あり得る。
しかし、『ぺ』の部分のマヌケな響きがあまり好きではなかった。
ただそれだけだった。
まりっぺと呼ばれるたびに、「私は本当にまりっぺなのだろうか?」と心の中で疑問を感じている自分がいた。
結局、私は4年間その子にとって『まりっぺ』だったし、そう呼ばれているのを聞いた人たちにも私は『まりっぺ』として認識されていたし、何かふに落ちないまま『まりっぺ』として大学を卒業したのだった。
そう思うと、親友が入部をしなかったのは賢明だったと思う。
彼女は『ゆかっぺ』として過ごす4年間に、自分からきちんとノーと言ったのだ。