「先行きは見えなくても、まだ努力する時間はたっぷりある」志茂田景樹さん(1)
作家、よい子に読み聞かせ隊隊長として活躍されている志茂田景樹さん。
Twitterに寄せられる悩みに答えるなかで、いつしか「Twitterお悩み相談」と話題になった志茂田さんに、昨今の夫婦が抱えてしまっている不安や風潮について答えていただきました。
「言葉に弱くすぐ傷つく」世代の家族問題
――志茂田景樹さんのTwitterには、どんな相談がありますか?
志茂田景樹(以下、敬称略):目立つのは、親に関する相談。自分の両親との折り合いの悪さですね。2~3日前にあった相談で、別居している両親が、まるで近くにいるように自分たちの家族に干渉してくると。おそらく電話やメールでズケズケ言ってくるんでしょうけど、離れているんだから聞き流してしまえばいいんです。でも、それができない。ある意味では弱いというか、繊細なんでしょうね。
――言葉に弱い、すぐ傷つく理由はなんだと思いますか?
志茂田:その言葉をまともに受け入れてしまうんですね。たとえば、すごく感動するという意味で「鳥肌が立つ」を使うでしょ。でもその字面から「気持ち悪さ」で受け取ってしまう、言葉の使い分けができないタイプが意外と多いんです。メールやLINEの絵文字はそういったストレートな物言いを和らげるクッション的な役割をもつけど、親世代はそんなことやりませんからね。
だから「この文面はすごい怒っている」って勝手に思って心にグサグサきてしまうように、実家のお母さんの言葉も一番悪い意味の言葉として受け取って傷ついてしまうんだと思います。
隣の芝生が青く見え
すぐに結論を欲しがる私たち
――そのほか、特に夫婦やカップルの女性側からは具体的にどんなものがありますか?
志茂田:DV的な話や、夫の浮気よりも自分に好きな人ができてしまったという相談も多くありますね。あとは、他人と比べている相談です。たとえば、生活苦ですかね。豊かな暮らしができていないことに辛い思いをしている。
でも、ちゃんと生活できてるんですよ。全然できているのに、隣の暮らしぶりが良く見えるせいか、自分は辛い生活をしていると思い込んでいます。
足りているもので慎ましくやっていけばいいんですが、周りと比べてしまうので、満足しないんですよね。本当に貧しくて辛い人からは、そういう相談はなかったと思うんです。
――確かに、最近離婚した方のお話で「隣の旦那さんはちゃんとやってくれるのにうちの旦那は全然やらないから許せない」というのは聞いたことがあります。
志茂田:隣の奥さんからいえばそんなことないんですけどね。落ち着いて、自分の旦那さんのいいところを見ることはできない。
あと離婚についても、割とすぐに決断する傾向はありますよね。相談なんかも、「離婚したいですけど良いですか」って(笑)。
こうこうこうだからって離婚の理由を挙げているんですけど、もう決めてる。もう少し様子を見るとか、辛いけどちょっとだけ耐えてみようかなとか、少しでも結論を良いものにしようという部分が欠けて、すぐに答えを欲しがってしまう。
ある意味では、満ち足りた時代、物が有り余っている時代になって、いい意味での飢餓感がなくなってきたからでしょうか。ちゃんと過不足なく暮らしているのに、なにか満たされない。ちょっと夫婦間の問題あるだけで、自分たちより幸せな人がいるのに私たちは…って焦ってしまう。
贅沢はできなくても、別に不自由ない生活だと思うんですよ。でも精神が貧しいというか、物質的なものに惑わされて精神が負けている状態なんでしょうかね。
――なぜ惑わされてしまうでしょうか。
志茂田:おそらく精神的な不安にしなくていいものにまで、不安を抱えているから。
現代の先行きの見えない閉塞感も、引き金になっているのでしょう。でも、先行きですから、まだ努力する時間はたっぷりあるわけですよ。
なのに、何も望めない、お先真っ暗だっていう結論を自分で出してしまって不安がっている。たぶん社会の責任…政治なんかの責任もあるんでしょうかね。
僕らの子供の頃は何もなかったから、どっちを向いてもはるか向こうまで見通せた。もうちょっと未来を期待できるような、何かやれそうな夢を抱けたんです。「長嶋みたいな選手になりたい」なんて夢、多くは叶えられなかったはずなんですが、その夢を描いたことを振り返って後悔している人はいないと思うんです。
ところが、今の10代半ばは、非常に具体的な夢、僕らからすると夢とはいえない、一生懸命努力すれば叶えられそうな夢を持ちます。夢というものを非常に現実的に捉えて、叶えないといけないものだと思っちゃってる。
だから、思うようにたどり着けないもどかしさで自分を責めてしまう…そんな危うさが今の世の中にありますよね。